広東料理は中国南部の広東省、香港、マカオ及び海外の広東系住民の居住地区で食べられている料理。粤菜(えつさい、中国語 粵菜 ユエツァイ Yuè cài)とも称され、中華料理の四大菜系、または八大菜系のひとつに挙げられる。
「広東人は飛ぶものは飛行機以外、泳ぐものは潜水艦以外、四つ足は机と椅子以外、二本足は親以外なんでも食べる」などと言われるほどさまざまな物を食材に使用している[1]。嶺南地方の温暖冬季少雨気候(サバナ気候~温暖湿潤気候移行部型)で育つさまざまな野菜や海に近いために多用される海産物を中心として、燕の巣、ふかひれ、イヌ、蛇、果てはセンザンコウからゲンゴロウといった他では珍しいものまでが広東料理の食材として市場で売られている。野生動物を用いた料理は「野味」(広東語 イエメイ)と呼ばれるが、ハクビシンがSARSの感染源とされたため一部規制されるようになった。
海鮮や米を多く使った料理がポピュラーで、麺類も米で作った「粉」(ファン、ライスヌードル)も一般的であるが、元来北方の料理である小麦粉の麺料理も多く、南北の食材を取り入れていることの表れでもある。
調理上の特徴は、野菜などの持ち味を生かした、薄味の炒め物や蒸し魚、スペアリブ、餃子などの蒸し物が基本であるが、土鍋で煮る「煲」(ポウ)や、叉焼などのロースト「燒」(シウ)、たれで煮る「炆」(マン)、くずれるほど煮込む「熬」(アーウ)などもある。
暑い気候である広東省では、医食同源の観点から、生薬にもなる食材、例えば山芋、杏仁、ハトムギ、麦門冬などを取り入れ、野菜や肉などをじっくり煮て、食材のエキスを抽出したとろみのないスープ「湯」を非常に重視しており、種類も多く、日常的に食べている。宴会でも最初に出される熱い料理は「湯」である。作るのに時間がかかるが、レストランでは日替わりで様々なスープを用意しており、家庭でも電気式の陶器の調理器が普及しており、家庭でもよく作られている。
また、ヨーロッパの進出や香港、マカオの存在により、西洋料理やインド料理、マレー料理などの技法が持ち込まれた。これらの結果、「蛋撻 ダンターッ」と呼ばれるカスタードクリームのエッグタルトのような菓子や、パクチョイのクリーム煮、「中式牛柳」(ジュンセッガウラウ)と呼ばれる中華風ビーフステーキ、ハトシなどの折衷料理が生まれた。また、カレー粉、トマトケチャップ、沙爹醤(サテソース)といった各国の調味料も積極的に使用される。調理法においても、イセエビのチーズ焼きなど西洋料理のオーブンを使うものもある。
また、この逆にアメリカ中華料理であるチャプスイや、日本で普及した八宝菜及び中華丼は、広東料理をもとにアレンジされたものといわれる。歴史的に広東は外国との交流が深く、味もバランスの取れたものであるために世界中に広まって、現地でアレンジされたものと考えられる。他方、同じ沿岸部の料理である福建料理は、長崎ちゃんぽん、太平燕、焼きビーフンなど、外国で現地化した料理もあるが、相対的に保守的なものとなっている。
茶
朝食として粥や油條(揚げパン)を食べる習慣は中国各地にあり、広東省でも見られるが、広東料理では、他に、朝食、茶請け、間食としての点心(飲茶 ヤムチャ)が発達していることが特筆される。点心は、元々淮揚料理の茶請けや間食として発展してきたが、広州でも茶館が独自に工夫を加えて提供するようになると、朝食として食べられるようになった。また、日中麻雀に興じる人々にとっても雀卓を囲みながら食べられて便利であり、昼食に適するものもあるなど、さまざまなニーズに合わせられる特徴がある。このため、現在も各店が改良を進め、新しいものの開発が続いている。大きなレストランでは、一口サイズの小料理を保温式のカートに乗せ、卓を巡って供給するスタイルで朝から午後まで点心を提供していたが、最近では注文式に移行しつつある。しかし、提供する時間は多様化しており、中には24時間営業の店まである。また、スーパーマーケットやコンビニエンスストアもチルドの点心を販売しており、食べたい時に食べられる環境ができている。